12garage

主にゲームと映画についての雑記。

One week, My room 感想

ちょくちょくTLに流れてきて気になったので遊んでみました。
感想を書くのにtwitterでは書きづらいのと、ネタバレを含むのでブログにメモしておきます。

www.freem.ne.jp

nightlight.booth.pm

One week, My roomは、部屋にいる子供に一日一回アクションを起こさせて次の日の変化を見る、といった趣のゲームです。

個人的に感じたことを書きたいので、まあ、細かいゲーム内容については省きます。
短めのゲームですし遊んでいただければわかるので、ここを読む前にプレイしていただくということで。
遊んでもらいたいというか、自分で触らないと意味がないタイプのゲームだと思いますし。


概してドットも話の作りもとても良く、プレイヤーに読ませる仕掛けを工夫して盛り込んでいる良い作品だと思います。

なんというか、まず最初にゴミ箱をひっくり返して「あっ……」と思ったんですが、その「あっ……」と思うようなことを直視して作られた作品だなと思いました。(私事ですが、心理学を専攻していて児童カウンセリングについて勉強することがあったので、かなりこういったケースが紹介されており、なんとなくそういった案件かなと早い段階で当たりをつけることができました)


のっけからこんなことを言うのもなんですが、この作品をゲームとして見た場合、どうしてもプレイヤーの抽象的な「気付き」に依存する部分が多く、押さえるべきポイントを察することができない人は詰んでしまうかなと思います。
ある程度のゲーマーならすぐにわかる程度のものだとは思いますが、だめな人はだめかもしれません。せっかくメッセージ性の強いゲームですし、いろいろな人に遊んで理解してもらうために、もう少し直球なヒントがあっても良かったかもしれないと(個人的には)思いました。しかし、その「気付き」とか「試行錯誤」といった、少ない手札の中でどうにかしてこの子供を生き残らせたい、というプレイヤーの思いこそが製作者の意図なのかな、と感じましたし、言葉少なに匂わせプレイヤーに考えさせていることは演出として高く評価されるべきとも思います。
このあたりはやはりゲームとしてユーザーライクで広く理解してもらえるのを取るか、思想的なテーマを掘り下げるのを取るかの天秤で、悩みながら製作されたのではないかな、という印象を受けました。

物語を重視した視点で見ていくと、アイテムを触ったときの説明文や日記、日付をよく計算して作っているなと思います。「今は12月なのに教科書はなぜ7月から進んでないのか?」「どうしてプレイヤーがひとつ行動を起こしただけで主人公が眠ってしまうのか?」「一人称が安定しないのはなぜか?」といったナゾの仕込み方が上手なうえ、それが現実に起こっていることをよく参考にした(たとえば、余裕がない家庭で、ファストフードや出来合いで栄養バランスが偏ったものが食事に出やすいという問題は、アメリカでも貧困層の肥満というかたちで現実に起きている)もので、ゲームという枠を使いながら「我々が暮らしているこの現実で、少なからぬ人々が、社会的弱者としてどうにもならない限界を迎えている」ということを伝えるためによく考えられた手法だなと感じました。

ですから、ゲームに対してこう言ってはなんですが、ある種のメッセージを伝えるためのツールとして非常に完成している、思想的な作品だなと思ったんですよね。それでいて「誰が悪い」という悪者を決めずに、ただそっと、起こっている問題をそのまま子供の視点から切り取ってみせたのは、もはやルポルタージュと言ってもいい凄い腕前なんじゃないかなと。
この作品の中に出てくる人物はみんな、なにかしらのどうにもならないストレス、それぞれの事情や不条理を抱えていて、そのどうにもならない世界の冷たさや闇をゾクッとするほど素直に出せているのが素晴らしいと思うんですよ。主人公の母親も母親で心を追い詰められているし、主人公に危害を加えるとなりの「お兄ちゃん」ですらも、(Tipsでわかるように)精神的に破綻するような状況に置かれているのに友人からはメールも返ってこない……というような孤立した状況なわけで、みんな救われたいと思って苦しんでる側なんです。「コイツはどう考えても悪者だ!!!」ということを安直に決めつけられればラクなんですが、そうすることができないイヤラシさが、特に闇が濃くて好きですね。


それになんといってもやはり、舞台を小さな一部屋に限定したのは、「子供から見える世界の狭さ」とよくマッチしていますね。
もし生きることが辛くなっても、大人だったら唐突に仕事やめて転職したっていいですし、就活やめてバイト暮らしするとか、死ぬ以外の逃げ道がいっぱいあります。競馬行ったりパチスロしたり、録りだめた深夜アニメ見てダラダラしたり、洋服をどっさり買ってきたり。もちろん、大人の方が心を病まないと言っているわけではありませんが、逃げる道の方向性がいろいろあるわけです。
でも、子供はそれがありません。特に貧しい家庭で、親に金銭的負担をかけたくないと思っている子供の取れる選択肢なんて、あまりにも少なすぎる。いじめられるから学校に行くのもつらい。そんななか、かろうじて自分を生きることに結びつけているのがたったひとつのラジオで、そのラジオすらぱったりと自分に語りかけるのをやめてしまったら……?
自分ではどうにもできないことに苦しめられ、息が詰まるような閉塞感を味わう人から見た残酷な世界というのが、非常によく描けていると思います。





概して、重く苦しいテーマを描いた作品だと思います。そしてそれがファンタジーやフィクションではなく普遍的なことで、今こうして僕が記事を書いている間も、どこかの子供に起きていること…という生々しさもあります。しかし、それをしっかりとプレイヤーに理解させ、「救う」のではなく物語の外側から主人公を「支える」という位置に配した構成力は、とても素晴らしいと感じました。
ふだんゲームをする人だけでなく、広くいろいろなひとに触れてもらいたいタイトルです。次の作品が出るならば、それもぜひ遊んでみたいなと思いました。

(了)