12garage

主にゲームと映画についての雑記。

ザ・タウン

今回はもう、すごく面倒くさい人丸出しで感想を書きたい。それくらい最高だったんだよ。

この映画、なにが凄いって、主演のベンが監督や演出もやってる(し、劇中でも低く唸るような声で全てに絶望したような色を背中から滲み出させる一流の怪演を見せている)ってこともすごいんだけど、「街」への執着が凄い。

あらすじとしては、チャールズタウンという世界最多の銀行強盗発生件数を持つ治安が最低な「実在する街」で、ダグという強盗チームの統制役の男が、あるヤマをきっかけにタウンを出て人生を変えたいと願うようになるクライム映画なんですが、

この映画の主要な出演者の殆どがこのチャールズタウンの「出身者」「元犯罪者」か、ここを担当していた「元FBI」な上、主人公一味は実在する人物をもとにつくっているので「限りなくノンフィクション側に寄せたフィクション」なんですよ……。徹底して「この街のリアル」に迫っている。
冒頭にぶちかましてきた強盗シーンもすでに「ヒート」を越えているというか、「現代でヒートやったらこういう感じだろうな」ってのを惜しげも無く(そう、ここが山場なんじゃない。まだ開始10分でとんでもないクオリティの強盗シーンをぶち込んでくる)見せてくるんですよね。

これはもうすごい。PAYDAYとかGTAとかのクライムゲーが好きなら是非見てほしい。

「馬の去勢」の話なんかは「スナッチ」のブリックトップのオマージュなんじゃないかなど、既存の映画ネタも面白いし、そういう意味でも最高。

「身軽」になれたダグ

確かに、基本的にはマイケル・マンの「ヒート」(前のブログで記事書いたけど)をベースにしていて、「ヒート」を見ていないとわからなかったり、焼き直しじゃね?と思えるところもあるんだけど、でも マンが「ヒート」でも「パブリック・エネミー」でも書けなかった(まあ後者は結末決まってるからしょうがないけどさ)ところに到達してるんだと僕は思う。

この二作って結局は悪党が木造の小屋で撃たれて一件落着、まさに「バイバイ、ブラックバード」で終わるある種の勧善懲悪的カタルシスを観客に与えて気持よくスッキリ終わる作品だったんだ。 あー、仲間への義を通したんだね。女の愛を信じても、やっぱ売られちゃったんだねー。それで悪党は自業自得で死んじゃう。切ない気分が残るなぁ。これがミソだった。

ただ、ね。「ヒート」で「今、ここで仲間や女を見捨てれば、逃げきれる!!」というシーンがいっぱいあって、ヒートでは悪党らしく「いつでも逃げきれるように家庭や女は捨てられるように身軽にしろ」って言いながらも、それが実際にはできないという人間性や葛藤に重心を置いてるんだけど、やっぱり見てる側としては「なんで逃げねーんだよ!」という不満もあったのは否定出来ない。

そこでこの作品でダグが出した答えが、「大切なモノを捨てて血を流しながらも、生きてわずかな希望を持つ」ということだった。これは「ヒート」をリスペクト元においているがゆえに、「ヒート」を見ていなければ感じられないという、弱点でもあるんだけど…

ダグはジェムとうまく行かなくなるし、一度恋人に裏切られるし、母親の真実を聞いたりしてまたブツに手を出す。ここでダグはすでにケツまくって逃げることを選択しても良かった。でもダグはそうせず、ギリギリまで待った。「ヒート」のニールと同じように。
しかしこの点でニールと違ったのは、捨て鉢にならず最善手を考え抜こうとしたことだ。ダグは電話での呼び出しにも警戒した。その結果その場で御用とはならず、「晴れた日(ここに来たら死ぬわ)」という愛を受け取れた。

ダグだけが生き残ったのはご都合主義ではない。アメリカ特有のルーズな倫理観のせいでもない。彼はただヤクをやめて酒をやめて人を殺さずに自分を正当化しようとしただけじゃない。クレバーであり、持っているカードについて最高の使い方をしようとしたから生き残れた。当然の結果なんですよ。
しかも、ダグはさんざん周りにも「足を洗おう」と言っていたわけですよ。ファーギー、これで丸く収めてくれ。ジェム、やばくなったら逃げろ。デズ、今ならムショに入るだけで済む。ね?少なくとも彼一人で「助かったぜ~~~一人勝ちだワッハッハ!!」っていう映画じゃないわけですよ。「クソ食らえ」「投降する!」と言いながら彼らは「タウン」のしがらみに飲み込まれて命を落とした。「地獄の黙示録」のカーツよろしく、ベトナムならぬタウンの狂気に飲まれて死んだんですよ。

もっと言ってしまえば、クライムもので大抵なぞられる「俺たちに明日はない」展開、これこそがお約束でご都合主義な、マンネリ化したオチなんじゃないですかね?犯罪者死すべし、は結構ですけど、なぜ警官が最後には勝利を収め、犯罪者が全くもって生き残れないのか。それについては一考の価値もないのでしょうか?

彼が生き残れたのは、代償を払ってニールが選べなかった「身軽」になることを選んだから。それでさえもFBIの追跡があるからのうのうと享受は出来ないし、暗雲が立ち込めている。列車の中のダグの表情はそれを表しているわけです。
穿ち過ぎかもしれませんが、僕はそこまで描けている映画だと思いますし、棘のある言い方ですが、わざわざタウンの人間を使うまでのこだわりを見せているベンに対して「犯罪者に対して甘ったるいご都合主義」という批評はちょっと的外れなんじゃないかな、と。

総評

すごかったですね。 リスペクトはしても完全には「ヒート」をなぞらない、これは「タウン」なんだという意志を感じました。 スラム同然の犯罪都市で絶望にもがき手を汚しながら、ほんの少しでも綺麗に生きていこうとする人間の姿というのは、本当に感じ入るものがありましたし、ベン自身が身を削って描いてるなとヒシヒシ伝わってきて、気圧されました。
セクシャルなシーンがあるので注意が必要ですが、「ヒート」にハマった人にならこれは太鼓判押せるな!という映画でした。

どうでもいいことですが、ジェレミーの銃の扱いがプロすぎて「わざとヘタに使え」と言われていた部分は笑い転げました。