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主にゲームと映画についての雑記。

バイオハザードにみるウォークスルーホラーの完成

 いまさらながらな近況報告ですが、最近ちまちまと「きたねえ家だ!」「きたなすぎる!」「今すぐこのきたねえ家を焼き払え!」と悪態をつきながらバイオ7をやっていました。いまは無事クリアしてヴィレッジに取り組んでいます。
 いやー、バイオハザード7を作ったことはまさしく偉業ですね。素晴らしい。

 僕はあんまりメジャーなゲームについて記事を書かないんですが、今回は感想をまとめがてら気づいたことを書いていきます。


もくじ



ちゃんと怖くなったバイオハザード

 バイオハザード7のすごいところ、それはバイオをホラーに引き戻したことにあります。バイオハザードはその是非はともかく近年サバイバルシューターになっていったので、そこをプレイヤーに恐怖を与えるという原点に立ち返ったわけですが、これはもうすごいことなんですよ。

 ホラー作品が恐ろしいのは、ジャンプスケアやグロだけでなく「それがなんなのかわからないから」「どうすればいいかわからないから」という要素を含んでいるからでもあります。それがやはりシリーズになると、だんだん情報が積み重なってきて「なんなのかわかってしまう」のですね。これを「わからない」に巻き戻すのは至難の業、というか無理です。なのでシリーズを追うごとにホラーというのはその怖さが失われ、「なんなのか」を解き明かすサスペンスに近づいていきます。バイオハザードでいえばウィルスのことよりレオンやクリスやウェスカーたち登場人物にフォーカスしてアンブレラに迫っていったのがそれにあたるでしょう。リングがだんだん"らせん"とかに方針を転換していったのもそういうことですね。

 そこでバイオハザード7をやっていて思ったのが、彼らはバイオをホラーとして作るために2つの手を打ったんだなということです。

 ひとつは、いったん過去を断ち切ったことです。イーサン・ウィンターズというごく一般の人、出勤初日から最悪の勤務になった元警官とかナイフ一本でウホウホしていたBSAAのハイパーゴリラとは違う「普通の人物」を配置して、全く新しい物語に見えるよう設定し、そのあとで改めてバイオハザード世界と接続することで、いったんこれまでの文脈を切りつつホラーを描いた。うまいですね。

 もうひとつはウォークスルーホラーを取り入れたこと。これも上手いんだよな。トレンドの取り込み方が上手い。


抵抗できないホラー

 2012年あたり、一部で伝説的な人気を博したSlender: The Eight Pages、そしてその製品版のSlender The Arrivalに端を発すると思われる一人称視点ウォークスルー形式のホラー(便宜上この記事ではウォークスルーホラーと呼ぶことにします)。これらは一貫して「一人称視点で逃げながら目的を達成するしかない」というゲームで、そのあまりのプレイヤーの無力さや散りばめられた謎は話題を呼びました。確かにそれ以前も一人称視点のホラーというのはF.E.A.R.などもありましたが、ただの無力な人を主人公に配置して「ただ走るだけくらいしかできない」というのはなかなか無かった。そしてほぼ時を同じくしてOUTLASTやAlien: Isolationが登場し、「敵にほぼ抵抗できないハイド・アンド・シークホラー」のジャンルも醸成されていき、そしてついに天才クリエイター小島秀夫がそのへんの要素を分析してまとめ直し、P.T.でウォークスルーホラーの金字塔をドカンと打ち立てたわけです。いやーそれはもう「一人称で敵に抵抗できないホラーゲーム」がめっちゃ出ましたねこの時期は。

 これを使ってバイオを作ろう!と考えたセンス。大正解ですね。主人公イーサンが、最初のうちはジャックから逃げることしかできない。しかしそうでありながらも装備を集め、すこしずつ敵に抵抗できるようになり、「いつものバイオ」へと移り変わっていく。
 ホラーとして生き残るための恐怖を復活させつつも、従来のサバイバルシューター要素もあとから追加していくことで、「かつての怖いバイオ」をまた遊びたい客層と「いつものバイオ」を求める客層の両方を満足させることができているあたり、舌を巻く構成です。いやマジで頭がいい。


ヴィレッジにも引き継がれている"手"の表現

 主だって自分がすごいなと思った点は以上のとおりですが、ほかにも方々からすでに言われているでしょうが"手"の表現を工夫したことが良い。

 バイオハザードの従来作は、固定式のカメラからプレイヤーを映したり、あるいはTPSの肩越し視点を採用していたわけですが、7でアイソレート・ビューを取り入れたためプレイヤーキャラクターが見えなくなりました。没入感は増しましたが、これではイーサンというキャラクターのイメージが掴みづらいという欠点が生じてしまいます。

 そこで常に画面に映る彼の"手"に様々な苦難を味わわせることにしたわけですね。こうすることで「イーサン」という人物が声だけでなく肉体的にも個性がついていく(主にすんげえ痛い怪我というかたちで)。もちろんこれ自体はOUTLASTなどで既出の手法(手だけに)なのですが、これをちゃんと研究して取り入れたことが本当に上手。

 ヴィレッジにもアイソレート・ビューが続投した関係でイーサンの手がさらに酷いことになっていくわけですが、そんなやばい状況でも「よし」と言えてしまうあたりにイーサンのすっとぼけた人間性が垣間見え、手を使ったキャラクターづくりは見事成功していると思います。


バイオハザードは水平思考をしている

 つまるところバイオハザード7は横井軍平氏の「枯れた技術の水平思考」のうち「水平思考」をやっているのです。オリジナリティがあるかないかでいえば、実はそう大して新しいことをやっているゲームではないのですが、バイオハザードという一大シリーズの立場に驕らず、もう一回「怖さ」に回帰するために業界研究をやったゲームなのですね。
 さらに言えばヴィレッジも、1~6でホラー重視からサバイバルシューターに変化していったバイオハザードの歴史を自ら踏襲して作りつつ、「こんどのバイオハザードは怖すぎないよ!」とセールスに繋げたのは、う~んやるなぁといったところです。他を参考にするだけでなく自分のところの作品も再度組み込んでいくのが実に意欲的ですね。

 ただ、残念なことに既存のデザインを勝手に盗用している疑惑があり、よくない意味合いで他の何かを取り入れてしまっている部分は否めません。そのあたりに大手であるカプコン、ホラーの大家となったバイオハザードとして誠意を持ち解決に臨んでほしいなといったところです。
 いまも楽しくヴィレッジを遊んでいるところですが、より気持ちよく遊べる日を待っております。


<了>