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主にゲームと映画についての雑記。

「ハードコア」感想

 ハードコア ヘンリー観ました。感想をぼちぼち書いていきます。

 記事の前半にはできるだけネタバレは書かないつもりですが、いちおう気にするようならブラウザバックでお願いします。



 はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~最高かよ……どうしたらいいんだこの最高さを言葉にするには……ハァ…最高さが極まって尊い……
 じゃあなんで記事書いてんだよって話なので頑張って言葉を思い浮かべながら書いていきます。


 この映画は「ヘンリー」という死体から復活させられたサイボーグが、自分を助けてくれた女科学者の「エステル」を助けるために大暴れする映画です。とくに何らかのゲームの知識が必要なわけではありませんが、主人公が喋れない設定など「FPSのお約束」を意識しているような場面もあり、ゲーマーならより楽しめる作品かもしれません。
 では、以下ですこし詳しく話していこうかと思います。

じっとしていられない、復讐に燃えているんだ

 この映画の真髄を表すワードとしてエンドロールの曲のリリックから引っ張ってきました。本当にコレです。
 とりあえずPVどうぞ。  

youtu.be

 マジでびっくりするのが全編コレなんですよ。撃ちまくり、殴り倒し、足を引っ掛け、ドライバーでぶっ刺す。多少の説明シーンはありますがダレることはなく、全てが必要な情報で構成されている映画でして、気になる尺の方もなんとお時間96分でございます。まあその必要な情報ってのは大半が暴力なのですが。

 映画の視点は低予算映画とかなんかあのへんによくあるPOVなのですが、これは頭に据え付けたGO Proで撮っていて徹底的に一人称を貫き通しています。迫力のゴア!殺戮!銃撃!暴力!B級映画が求められるものを新しい切り口で見せてくるのがメチャクチャ楽しいです。

 話の内容もシンプルではありつつひと捻りしてあるのが素晴らしく、FPSによくあるテンプレを参考にしながらきちんと映画のスタイルに打ち直しているのが好印象ですね。キャラクターの造形も凝っていて、特に主人公のヘンリーと関わりを持つ"ジミー"という存在はこの作品をただの「PTAに怒られそうな映画」から「ファッキン・クレイジー・友情・ガンギマリ・バイオレンス・PTAに怒られそうな映画」へと昇華した素晴らしいキャラクターだと思います。


 …ネタバレせずに紹介する言葉がこれ以上思いつかないので逆に語彙を削りますが、この映画をさらに短縮して英単語ひとつにするならRage,Wrath,Vengeanceその他なんでも、無限の怒りを表す単語がそのままこの映画にあてはまると思います。
 強いて言うならDOOMでもいいんじゃないですかね?ちょうど血まみれですしだいたいそういう感じの作品です。何も考えずに悪党をぶっ飛ばす映画を観たいならハードコアで決まりでしょう。


 いくらかのゴア表現を見ても大丈夫なら、という条件はありますが、コイツは間違いなく百点満点でリベリオンと並ぶボンクラ義務教育ビデオと言えますね。僕にとってはそれくらいおすすめできる映画だと感じました。ぜひ見てください。







 さて、配慮した感想はだいたい書き終わったのであとはネタバレモロ出しで書いていきます。観る予定がある方はこの辺で社会の窓とかウィンドウを適当に閉じといてください。


この映画は本当にすごい

 脳ミソを全く使っていない見出しを付けましたが、この映画自体は相当脳ミソを使って撮られた作品だと思います。そのあたりのことを分野ごとにダラダラ書いていきます。


撮影と映像編集がすごい

 ただGO Proで撮ってるんじゃないんですよ。「ヘンリーの視点」として撮ってるのが本気でヤバイです。
 どういうことかといいますと結局、頭にカメラを取り付けてもただ頭の動きとアキシャル(同軸)なだけで、その人が何を見ているかという眼球の動きまでは追えないわけです(そりゃそうですよね。眼球からみた画を撮りたいなら目の中にカメラ入れるしかないですし)。

 ところがどっこい、この問題点をイリヤ監督が完全に理解しているのがガチですごいですよ。この映画を撮ったイリヤ監督自身も主人公ヘンリーとして演じているシーンがあり、「いま、ヘンリーは何を見たか」「何に気づいたか」をカメラの動きできちんと表現してるんです。これはヤバイ。人間の目の動きをエミュレートしてるんですからね。もうその発想が気持ち悪いくらい頭がいい。
 喋れないヘンリーがグレネードの詰まった箱を一瞥することで、「あっ、主人公はこれに誘爆させようとしてるな」と我々に理解させるわけですから、構成能力がハンパじゃないですね。

 そんでもって手間かけて撮ってるこの映像を大胆にカットしてるのがぶったまげますよね。いいの?マジで?もったいなくない……?
 ハードコアを観てるとだんだんなんとなく察するんですが、暴力的な内容とは裏腹に、非常~~~~~に丁寧に編集して画面酔いを起こさないように配慮してるんです。たとえば戦闘シーンやチェイスシーンで敵を殴ったり走り回ったりして頭が揺れるわけですが、揺れすぎるシーンはカットして断片的に見せることで画面酔いの問題を小さくしようとしてます。いやいやスゴイっすよこれ。カットしつつ要所は押さえているので違和感がないですし。
 映像チームもとても優秀なんだなということがわかります。

音楽がすごい

 まーあまあまあまあ音楽のセンスが激アツです。もともとハードコアはイリヤ監督が「自分のロックバンドの宣伝で作ったPVのウケが良かったので同じように撮ることにした映画」だそうで、音楽センスがあるのも宜(むべ)なるかなとは思いますが、大暴れする山場にQueenのDon't Stop Me Nowを選んだり(そこにこの曲名を当てるのも茶目っ気ありますよね)、それだけでなく序盤のテンション上げていくシーンはダブステップを刻みながら入れてくる念の入れよう。ここまでされてアガらないほうが無理な話ですよ。

 緩急の付け方もなかなかのもので、たまに入れてくるロシア音楽で舞台がまさにそこであることを意識させたり、コメディパートにも曲が活用されていてボロクソ笑いました。無論ほかの楽曲提供者や音楽チームもあってのことですが、この人は多才だなと感じざるを得ないっすね。

洋ゲーへの理解度がすごい

 FPSを標榜するだけあって緻密にあの界隈のテンプレネタをオマージュしてます。主人公のヘンリーが喋れないのもおそらくそうですし、全体的なシナリオの流れはバイオショック風味もあります。それでいてCoD:MWのプリピャチライクな廃墟は出すわ、ミラーズエッジのごときパルクールも盛り込むわでよ~~~~~~く分かってる感が伝わってきます。たまに中ボスが出てきたりジミーという相棒が出てきたり、バカゲーに無くてはならない日本刀も出て来るしでまったくスキがない。

 さらにFPSに限らず洋ゲーとしてですが、スリック戦の室内戦闘はまさにHOTLINE MIAMIの手に汗握る駆け引きそのまんまですよ。ドアで敵をノックアウトしてトドメさすのなんかは「あ~~~やるよね~~~それ!」とついつい思わずにはいられない!銃をポイポイ捨てたり敵に向かってぶん投げて怯ませたり、戸惑っていたヘンリーがだんだんRキー押しまくったプレイヤーみたいに「最適化された戦術」を取るようになるのが観てて飽きません。場面を変えることでヘンリーの戦い方に変化を与えており、ずっと戦いどおしでも観てて飽きないところもいいですよね。


ジミーがやばい

 ジミーのことだけでこの記事を埋め尽くしたいくらい好きになりました。ひたすらジミーの活躍を書きまくりたい。「ジミーにとってヘンリーは希望であり、ヘンリーにとっても記憶のない彼の支えになった」とか「メモリーのロックを解除してくれたからこそヘンリーが最後に立ち上がれたんだ」とか、そのへんのエモさをエモ散らかしたい。
 好きと言っても僕はストレートなのでそういう意味ではありませんが、キャラクターとしてのジミーはもう好きにならずにはいられないですね。キャラ立ちしてて魅力的という面もありますが、狂言回しとしてのポジションが全くハズしてないという意味で作劇上でも「スゲエなこいつ」という思いを抱かずにはいられないです。


 ジミーというキャラクターの設定にまったく死んでる場所や腐ってるところがないのって、マジでヤバイと思いません?いやジミーは何回も死んでるけど。もしかしたらジミーを主人公にして撮るつもりもあったのかもしれませんね。

 まず、先程も書きましたがジミーという相棒役がいることでバディプレイの画が撮れるところが最高ですね。やっぱFPSはバディやチームですよ。ブラックジョークをかますイカした仲間は欠かせません。
 そしてやはり、ジミーが何回も出てくること。これはこの映画にとって幾つもの意義があって、観てるときも単純に面白いんですがこうして「物語の構成を眺めてみる」ときにもビビりますね。無数のジミーが存在することで、それぞれヘンリーと接する性格も戦闘スタイルも違うので刺激に富みますし、「なんでジミーは何度も出てくるんだ!?」と観客を食いつかせるファクターになってるのがまさにしてやられたなと言う感じですよね。
 必要な役回りをすべてジミーで賄えるので登場人物がスッキリするのも合理的。POV映画は観ているとどうしても疲れてしまいますし、「96分という尺に収める」という配慮的な意味でも、登場人物を一本化するのはいいアイデアだと思います。もっと言ってしまえば、都合上喋れないヘンリー(そして一人称視点で観てる我々)の気持ちすらも代弁してるわけで、彼が居ることで八割くらいこの映画の魅力が増してる気がします。
 また、死んでもいいキャラクターゆえに死を前提とした戦術を取れるのも観てて面白いですし、ムチャすぎるシーンはジミーがやってくれるため物語がノンストップで展開するところも素晴らしい。この映画はヘンリーの視点で進む以上、ヘンリーがあまり何度も死ぬようなことをやってしまうとそこで展開が止まっちゃうわけですから、ジミーがそこにスッと入ってくれるのがとても噛み合ってます。


 ジミー、いやほんと最高ですよね。皆さんはどのジミーが好きですか? 僕は火炎放射器を持った敵の耐火服を"ゲイみてえだ"と煽って焼き殺されたジミー」がベストジミーです。
 そういえば、なんでもハードコアがPAYDAY2とタイアップしてるそうで、よりによってジミーの中でも一番ヤバいジミーがJOBやってるらしいですよ。いいのか悪いのかわかりませんけど元気そうで何よりです。


まとめ

 やはりPOVということもあり酔いやすいのは否めません。ゴアも足かせになって人を選びますしね。賛否両論に分かれるのも仕方ないことだと思います。
 そういった面で万人にはオススメできない作品ですが、ただ「我こそは」というボンクラ野郎の期待にバッチリ応えてくれるのは確かです。「質」という点で人を選んでいるのではなく、「好み」として人を選ぶだけで、作品の出来としては全く問題がないと感じました。

 いや~~僕としてはほんっっっっっっとうに楽しめる最高のバカ映画でした。
 バカ映画として素晴らしく、それでいて「バカ映画」に余計なしがらみ無しで没入できるよう、見る側への配慮や物語の構成に全力で取り組んでるところが大好きです。
 ハードコア、これは小難しい理屈抜きで、ゼッタイ観るべき映画だと思いますね。マストです。迷ったら観ておくことをオススメします。


 あとは……まあ、気の利いた締めの言葉が思い浮かばないので例の曲を置いときます。
 レンタルビデオ屋とか行ったらなんとなくハードコアとか、ジミーのこと思い出してください。以上です。


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