12garage

主にゲームと映画についての雑記。

忌録"みさき"(文学極道投稿版)についての考察

 みさきという小説がある。


bungoku.jp


 これは厳密にはモキュメンタリーというべきか、ある架空の事件にまつわる資料をまとめて小説の体としたものである。のちにこの小説を含めて忌録という短編集が出版されている。


忌録: document X

忌録: document X


 この"みさき"についていろいろ調べてネットでわかったことや自分の考察をふせったーにまとめていたものを、ブログ用に少し加筆修正してここに残しておく。

 あ、一応先に断っておきますがあくまでも勝手に僕が言っているだけのことなので公式解釈でもなんでもなく、ジョン・ドゥに笑って見てもらう程度の意味合いしかないです
※あとすんげえネタバレなので注意



もくじ



この事件は結局なんだったのか

 たぶん人柱の慣例をずっとやってる村で子供を殺して「今回も魂を捧げ終わったな!ヨシ!」と現場猫してたらお節介オバハンが本物の霊媒師呼んですべてを明らかにしてしまった&マジモンの何かを呼び寄せてしまったという話

ざっくりとした流れ

①(作中の)伊丹にはもともと人柱の風習があり今回は吉野美咲ちゃんが選ばれた

②美咲ちゃんをどこかで殺害。吉野家、美咲ちゃんの誕生日の前日1992年7月7日に家族で出掛けたということにする。あとあと疑われても面倒なので御願塚古墳で誘拐事件をでっち上げ、神隠しとして演出した。

③翌日美咲ちゃんの誕生日、美咲ちゃんの祖母絹江さんが死ぬ。

④疎遠だった母方の親族である結城フクさんが失踪を真に受け、吉野家に粘着DMアタックを食らわし、事件から一ヶ月後に約束をとりつけて川上さんを呼ぶ

⑤川上さんの交霊で真実が明らかになってしまう。ただこのとき美咲ちゃん以外の何かが一緒についてきてしまい、保険として依り代にしていた板が割れる。

⑦川上さんが死ぬ。川上さんの家が焼ける。

⑧交霊直後から美幸さんがおかしくなりだす。村に怪現象が起き始める。

吉野家に脅迫状が送られる。


それぞれの出来事と資料への推察

 前項で自分がまとめた流れが正しいと仮定して、関連する資料とあわせそれぞれの出来事を番号順に追っていく。

①談話2から何者かが人柱を作っていることがわかる。ただ談話2のようなつい最近まで人を殺して人柱にしてました(今も殺してます)と聞き手に思われるような話を外部に漏らすとは考えづらく、この談話自体が伊丹の地域の内々でされたものを書き留めたメモとみるのが自然ではないかと思う。

②概要、補追。この概要で重要なポイントは美咲ちゃんの目撃証言が頭からケツまでひとつもないことである。百貨店(つかしん)に行っていたときの証言もない。要は吉野夫妻が「今日は一緒にいたはずでした」と言っていただけか、古墳までの道中のどこかで美咲ちゃんを殺害して別の場所に移した可能性が濃い。また、概要のなかで警察犬が古墳から出る様子がなかったということは「美咲ちゃんが神隠しに遭いまだここにいる」というオカルティックな考え方もできるが、「そもそも美咲ちゃんがここに来ていなかった」から追おうにもどこにも追えないのではないかとも考えられる。たぶん吉野夫妻の狂言なので古墳についての情報はあまり深く考える必要はない。

③補追。これはたまたまとも考えられるし呪いとも考えられるが、どちらかというと神隠し説に説得力を持たせるためにたまたま絹江さんが倒れたのを関連付けたものか。

霊媒、資料から。フクさんの粘着DMすげえな。Twitterの厄介かよ。
とはいえ、フクさんの近所のてんかんの子によろしくない何かがあったようなので、心配性なご老人としてはいちおう理解できる。
川上さんの過去の件などを見るに、客観的に霊能力でいろいろと解決した実績があることがわかるのでこのあとの立会人の言葉にもそれなり信憑性はある。

⑤交霊、資料。フクさんの代理の立会人と川上さんが広島から兵庫に向かう話。これは完全に伊丹の村と関わりがない第三者の話なので、この話の中ではオカルトじみてはいるが実は一番信憑性があるように思われる。
途中でカコイサマが木目に沿わず割れるという描写があるが、資料にあるようにカコイサマはある種の安全装置であり身代わりである。それが割れるというのは人の力では考えづらく、ここはおそらく本当の人外の存在が出てきた部分だと思われる。
このときに召喚してしまったものはふたつあるのではないかという説明がされるが、これは美咲ちゃんの霊と代々人柱にされてきた魂なのではないかと考えている。本来美咲ちゃんの霊は談話2のようにそのまま何も無くなった神として完成するはずだったところを、中途半端にまだ恨みがある状態で掘り返してしまったので荒御魂とでも言うべき状態になったのであろう。

⑥談話1。個人的に、ここはオカルトと人為的な犯罪が入り混じっているように思える。
交霊の時点で立会人が広島から川上さんとふたりで移動していたことを考えると、川上さんは伊丹近辺に住んでいたわけではないとみる事ができる。これは特に伊丹とは関係ない川上さんの地元の話であろう。川上さんはおそらく交霊の件で美咲ちゃん殺害の真相や伊丹の村の事情を知ったために、伊丹からの刺客による他殺の憂き目にあったのではないかと思われる。多少のゴタゴタはあったにせよいろいろと丸く収めてきた川上さんの過去の実績を考えるとさほど地元住民に恨まれていたとは考えにくく、川上さんの地元の人の殺害とは思えないし、動機もあまりないだろう。
この談話での怪現象はどうにも説明がつけづらいが、伊丹の件についてはよく知らないであろう住職まで自損事故で重体になっところをみると人為的なものとは考えにくい。川上さんに"何かが憑いてきた"状態で川上さんが殺されたために、談話2にもあるようにそれが暴走を始めたというのもあり得る。とんでもない巻き添えだ。
川上さんの家が焼けた件や井戸の蓋が開いていた件については人の手によるものではないだろうか。遺体やメモや証拠が残ると困るというわけである。

まあこれだけの騒動が起こっているアウェーの村で殺しをやりおおせた伊丹住民のガッツはなかなかのものがあるとは思う。

⑦談話3。これは伊丹のものかわからないが、何かが起き始めていることがわかる。
交霊の部分で魂はあったけえ所に入りたがる…というような節があったが、それが人の体の中だとするとなんともゾッとする話である。

⑧資料の脅迫状。伊丹の村人から吉野家へ向けたもの。
おそらくここに書かれていることは事実であろうが、純粋に村人が告発のつもりで書いたものではないだろう。いわば遠回しな縁切り状ではないかと僕は考えている。
村人にしてみれば御願塚古墳の狂言失踪事件までは良かったのだが、川上さんの交霊で本当に何かが起き始めてしまったこと(脅迫状には犬がおびえるとある)、そしてドジを踏んで全国的に大事になり始めたことから人柱の風習が世間にバレるリスクもあり、お前たちにこれ以上ここに居てもらってはろくなことが起こらないので困るという意味合いで告発状を突き付けたのかもしれない。

付記とこの記録を残した人物についての考察

 付記についてはどうしてもわからなかったので調べたが発音をすべてローマ字に直して書いていくとこの記録冒頭にある鎮魂歌の逆さ歌となる。鎮魂歌を逆さにして、最後にこの件でおそらく死んでいて交霊でも現れた美咲ちゃんの写真を貼るということはそういうことであろう。
コワ〜〜ッ………。

 さて、この記録を残した人物についてだが、僕はおそらく義弘さんではないかと疑っている。
そもそも肉親が子供を殺すというのはたとえ村の慣例だの集団催眠だのがあっても相当抵抗感のある話であって、せざるを得ないにしても遺恨はある。その吉野家がそれでもあくせくと奔走した結果が美幸さんの廃人化で、加えて因果は不明だが祖母の絹江さんも亡くなり、さらには村人から告発状の追い打ちまでかけられるわけである。義弘さんからすれば村のために娘ばかりか母も死に、嫁まで取られてこの仕打ちか、と内心怒り狂うのが自然な筋であろう。その復讐として一連の事件をすべて告発し、もはや心中とばかりに村すべてを巻き添えにする呪いとして鎮魂歌の逆さ歌を詰め込み、流布する……。そういった関係者すべての破滅を目的とした一連の記録がこの「みさき」ではないかと僕は思う。

 また、各種資料には外部からの入手が難しいものがいくつかある。これも義弘さん執筆説を裏付ける要素となる。
 確かにフクさんから吉野家に連絡が行っていたことは公になっているが、その書簡自体を手に入れるのは外の人間では難しい。吉野家に頼むか、ポストから盗んでくるかくらいしかないだろう。それが資料の欄にあるということは、吉野家の手になるものと考えるのが妥当だ。吉野家はやりたくなかったがフクさんからしつこく連絡があったせいで交霊をするはめになったという証拠を残すのは、いろいろと川上さんに恨みのある義弘さんからすれば益のある行動である。
 談話2も、すでに触れたように外部の人間に人柱のことを話すとは考えにくい。これは村の内部での話を、まだ今回の件が起きる前に人柱の儀式に向けて義弘さんが聞いて書き留めていたものと想像するとすんなり納得できる。
 なお先程その意味合いについて説明した付記も、鎮魂歌を逆さ歌にして載せているということから「(美咲ちゃんの)魂を逆なでして荒ぶらせたい」という意図があるわけだが、つまり今美咲ちゃんが魂の状態であり死んでいることを確信している人物でなければこんなことはしない。ということは伊丹の村内部の人間がこれをまとめたということになるが、伊丹の村人からすると事態の沈静化を図りたいわけで、逆さ歌なんて余計なことはしないだろう。要するに伊丹の関係者ではあるが村人の輪のうちにいない人である。
 そのあたりの条件を踏まえて考えると、"そんなことができる"かつ"そんなことをやって得をする人"は義弘さんくらいしかいないといったところである。
 

感想

 とても長くなったが、これが僕が推理するところの「みさき」である。たしかにこれは凄い小説だ。
どこまでが人の手でどこからが超常現象なのかわからない事件を推理するのは、まさに流行り神の主人公になったようで趣深いものがある。
忌録版は川上さんの家が焼けた事件についての資料もあったり現場が広島であることがわかったりするらしいのでまた違うっぽい。

え、忌録本編?ぼくビビリだから読もうか迷ってます……。

〈了〉