12garage

主にゲームと映画についての雑記。

ラブソングだけを聞いていたい

ツタヤで"愛を買わなくちゃ"という言葉に惹かれて、amazarashiを聴いた。

 

 


amazarashi 『ラブソング』 - YouTube

 

なんというか、本当に"愛を買わなくちゃ"とポップに書いてくれたツタヤ店員さんに感謝せねばならないなと思った。

いや、自分はラブソングが嫌いで仕方なくて、「なんでみんなそんなにラブソングに金を貢ぐんだ?大丈夫か?」と思っている方なので、ラブソングというこの題名にアレルギーを起こしかけていた。ラブソングなんか金もらっても聞きたくない。しかし蓋を開けてみれば、むしろ世間のみんながこぞっておしゃれな服やらをどんどん買ってラブソングを唱和することに「どうなんだろうね?」と吐くこの曲の猛毒。輪っかから弾かれたもの、曳かれ者の小唄として、極めてストレートに恋愛を流行と括り付けて売る連中を皮肉でめった刺しにしていてとてつもなく好きになった。

 

失礼なことを言うと、amazarashiに対してあの何とも言えない感じに下世話で大衆化した(いや、それが好きなんだけど)某乱歩アニメのOPのイメージがあって、広告代理店のために歌ってそうだなというか、マッシュルームカットのサブカル男連中がやたら好きそうだなと勝手に思っていた。しかし実際のところこのラブソングではまったく真逆に安易な流行や恋愛至上主義に中指を立てているわけで、ああ本当に最高だ…とえも言われぬ心持ちになる他ない。そしてそういったことを思う自分のようなクソ人間をさらに見越して歌っているような気すらする。

 

この曲の何が最高かというとこのPVも本当に毒がすごいなと。歌詞の中で"自殺"や"回春"といったワードがあるように、PVにもそういったものに見えるメタファーをありったけ突っ込んでいる。

もっとも、「アノミー」という曲とも関わりがありそうなので何とも言えない所はあるけれど、たとえば車で崖から落ちて包丁を振り回している男の子なんかは「自殺未遂をしてみたが死ねなかったので世を拗ねている」ように見える。女の子は花やそれにたかる虫、ルーズで汚れたままだらしない服、いちごミルク…つまりちょっと赤みが混じった白い液体を飲んでいるわけで、えげつないくらい体を売っていることの隠喩がある。壁の落書きマークなんて♂♀が合体したマークだよ?愛を買う、まさにそのもの。

中でも特に、いかにも王子様が乗ってきそうな白馬がサビでぶっ倒れるシーンはシビレた。理想の愛を運ぶ白い馬が"愛をもらえない"という歌に殺されるわけで、カタルシスを感じさせる。最高に気持ちがいい。

"ビデオゲームと人殺し"はもちろん安易なグロに食らいついて喜んでる人たちを刺す言葉でもあるんだけど、どちらかというと「それを規制することで根本的な問題から目を逸らそうとする人たち」のことも言っているようで、どこもかしこも無差別で突き刺している気がするのがいい。

 

ただ、アルバムの他の曲やナタリーのインタビューを読んで残念だったのは「明るい方に向かっていく」ということを言っていたことで、絶望するしかなかった。アポロジーは特にひどい。「俺はもうポジティブ人間の側にランクアップしたぜ。お前らいつまでそんなマイナス思考してんの?」と説教されているようで……。まさにナタリー的な。

ラブソングで世のジョックをぶっ刺していたあの毒はどこへ行ったんだろう、と…。世の中をせっかくウソっぱちだと揶揄したのに、なんだかんだ結局ポジティブで人の痛みなんか知ったこっちゃねーマジョリティ、同調圧力人間の方に行ってしまうのかという悲しさがある。世の中に対してごめんなさいなんか言うわけねーだろ。世間や社会のマジョリティたちは、現在進行形で自分やマイノリティを踏んづけてるんだぞ、としか。

本当にこのアポロジーという曲、嫌いというか、「ネクラ人間の中身をオレは見透かしたぜ!」と言う感じが鼻につくし、歌詞カードに書いてある"世界を許すと自分を許せる"みたいな綺麗事がムカついてたまらない。ラブソングであなたの言ったとおり愛をもらえてない人がいるんですよ。愛をもらえてない人間が何を許そうが愛を持ってないんですよ。

 

"祈り"が震災について歌った曲だってことは、まあそこはそう、思いやることはいいことだよなとは素直に思えど、やっぱり感動ポルノを売ってる連中と同じニオイがして好かない。あと原発問題にもやたら口を突っ込もうとしているのが…。

なんでほんと音楽活動してる人って一律に「自然スゲー原発ダセー」ってなるんだろうな。原発で作った電気で今まで曲録音してCDをリリースしてきてるのに……。いや、危険性はわかる、わかるし原発を使わないに越したことはないけど、その手のひらを返して「目が覚めました!自然はスゴイ!原発即廃止!」とか言い出すことが何よりダサいと思ってしまう。それこそラブソングで揶揄してた"テレビの宣伝に誘導されている"状況じゃないか?連中がまた新しい安全神話を作って売ってるだけってことに気付いてくれ。これだけ土地を占めてなおいまだにろくに増えてない太陽光や風力の発電力に童貞みたいな幻想を抱くなよ。

 

なんというか、まあ悪くはない、好きだけど、ラブソングだけ聞いていたいな……と思えるアルバムだった。明るいことなんか腐るほど代わりの人が言ってくれる世の中だから、別にポジティブな歌なんかポジティブ売ってお金取ってる人たちに任せればいいわけで、僕はもっと"明るい能天気さを持たないもの"たちが怒りから絞り出した毒に浸かっていたかった。