筋肉はべつにメンタルまで守ってくれない
ゼリア新薬の新人研修でのハラスメントで、自ら命を絶った青年のことがニュースになっていた。
そこで僕のTLで観測できる範囲では、その青年が筋トレを趣味にしていた点から、「近ごろ言われている筋トレによる精神病予防って、効果ないんじゃないの?」というような話になっているのが散見されるようになった。
僕の観点からだと、まあ、どうだろうね、と思う。
というより、僕はツイッターで度々取り沙汰される、「筋トレはメンタルを整える!精神病予防!」という言説がそもそもネタか何かだと思っていたので、まさか本気にしている人間がこの世にいるとも思ってなかったんだけど。
いや、べつに、筋トレを全否定するわけじゃないんだよ。運動して適度に体に負荷をかけ、内分泌をととのえたり、睡眠をきちんと取れるように眠気を誘発するという点で、筋トレは素晴らしいものだと思う。
しかし、それが「完全に精神病を予防する」とまで言うと、そりゃあそんなわけないよ、という話になる。
そもそも、人間が精神疾患をもつまでには、複数の段階やファクターが絡むわけなんだよ。
この事件の場合は、本人の人格を否定したり、吃音といった身体的特徴をあげつらう、過去のトラウマを無理やり話させるといった研修とは名ばかりの卑劣な「拷問」がストレッサーになっていることが要素として非常に大きいだろうと思う。
たとえプライベートでどんなに健康的な生活をしていようが、人間は一定時間高負荷に晒されたままの状況におかれると精神に大なり小なりの異常をきたすのだけど、たとえば五感をシャットアウトして拘束したまま人間はどのくらい耐えられるか、という実験や、眠らないまま何日間耐えることができるかといった実験があるんだけど、それらの結果なんかはまさに典型例なのね。
この事件については、すでにその実験のように重度の段階にまで精神的負荷がかかっているわけだから、そもそも筋トレがどうこう言っている場合ではないわけよ。それはもう関係ない。必要なのは腐りはてた職場からの隔離、医師による速やかな診断、投薬とカウンセリング、そういう処置だったわけで。
今にも死にそうなガン患者に必要なのは、いまさら野菜をモサモサ食ったりすることじゃなくて手術だろ?って、そういう話なんだよな。
要するに、筋トレが全く意味がないかとかいう話ではないんだよ。「今回のケースでは役に立たなかった」というだけ。
たとえば、不眠気味の人がいるとするでしょ?その人が、職場での嫌がらせで夜も眠れないっていうんだったら、それをどうにかするべきだっていう方針になるじゃん?
だけど、特に生活に問題はないけど寝れないんですっていう話だったら、軽めの薬を出したり「ちょっと運動してから寝てみましょうか」となるわけね。「その状況に合わせて予防や治療法があるんですよ」っていうことなんだよ。
だから、僕は「筋トレは完全に精神病を予防する!!!」みたいな言い方をする人(たとえば、最近そういう本出した人がいたけど)は当然信用できるわけがないんだけど、だからといってそれを槍玉にあげて「実は筋トレなんか何の意味もなかったんだ!!!!!」って騒ぐ人もちょっとどうかなって思ってる。
あと、これは蛇足っつーか心理学的な話になるけど、この事件で「研修」と称して辛い思い出を話させるってやつ、暴露療法を悪用してんだよな。素人がたぶん聞きかじりでこういう、他人のこころに土足で入り込んで荒らし回るようなことしてるわけで、僕は筋トレがどうのこうのよりそれが一番許せない。
常々言ってんだけど、心理学はそういうことに使う学問じゃなくて人を癒やすためのものなんだよ。ほんと、こういうクソ野郎を取り締まる心理学の団体が発足してほしいっていつも思う。
まあ、でも、なんだろうね…。
これを言っちゃあオシマイだけど、精神疾患を予防したかったら筋トレなんかより臨床心理を学ぶのが一番だと僕は思いますよ…。