12garage

主にゲームと映画についての雑記。

箱庭オーディオを組んだ

 ふと思い立ってオーディオシステムを組みました。



 いや、唐突ですね。「目が覚めたらそこは化け物が跳梁跋扈する火星の新エネルギー研究施設だった」くらい唐突な始め方でした。

 もともとパナソニックのスリムなコンポを持っており、オーディオの再生環境で困っていることはさほどなかったんですが、つい最近USB DAC*1を買ったこともありそのスペックを活かしてみたいという思いがふつふつと湧いていました。Hidizsという中国の新興オーディオ企業が作ったS9というDACなのですが、中に旭化成のAK4493eqを二基(ふだんひとつだがバランス接続時にふたつ駆動する)積んでおり、これがなかなかヘッドホンをよく鳴らしてくれます。たまらぬ音色であった。そうなってくるとどうしてもスピーカーで聴きたくなってくる……。


 そうだ、オーディオ組もう。


 「組もう」「組もう」そういうことになった。



構成案


 これまでイヤホンに沼ってきた経験上、なんらかのシステムを組むときは「上を見ると値段に果がなく、しかもユニットごとに個性を持ってるから相場がよくわからんうちに一発目からすべてを高級品で組むと絶対後悔する」という知見を得てきました。高いものを最初から買って「どうもドンシャリ過ぎて合わない」とか「カマボコで気に食わない」とかなったら悲惨です。悲惨でした(経験済み)。よって今回は「なんか音が出るやつを組み上げる」を目標に設定します。なんかするときの目標を限りなく低くするのは僕のような社会不適合者が生きていくためのライフハックなので、積極的に低くしてやっていきます。
 コンパクトで安価にまとめたオーディオシステムを世間ではどうやら「箱庭オーディオ」というらしいです。よしきた。豊かな瑞々しい庭園の如きピュアオーディオに対抗して、石と砂でもって枯山水をつくってやりましょう。オレが本物の侘び寂びってやつを見せてやりますよ!


 さて、構成です。まず今回の目的は手持ちのオーディオプレイヤーとDACを鳴らすということですから、デッキはすでに揃っていることになります。必要なのはケーブル類、アンプ、スピーカー。思い立ってさっさと組みたいのにお金をためている暇もないですし、お賃金もめちゃくちゃ薄給なので予算も絞っていきます。どんだけ頑張っても3万円以内というところで考えます。


 図にするとこんな感じ。


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 音の出てくる上流から考えていきましょう。

 今回はDAPを使うことを考えていますが、ここはDACのS9と接続できれば何でもいいのでパソコンでもいいでしょう。このときS9とつなげる前にセルフパワーのUSBハブをかませておきます。オーディオに限ったことではないですが、バスパワーを食って動くものは当然つなげたもののバッテリーをバカ食いするうえに、パソコンの供給力や小さいバッテリーで無理に動かすとなると電源としてちゃんと動かせてるのかどうか不安がありますね。あんまりバッテリーの残りを考えながらスピーカーを鳴らす気にはなれないので、別に無くてもいいですがここは入れておきます。

 次にDACです。Hidizs S9は左右の出力を片方ずつ別のチップで音を出す2.5mmバランス接続*2に対応しているので、コレを使わないのはもったいないです。ここからRCAで左右分けて出せば、理想的な左右の分離が期待できます。ただ、わざわざ携帯するヘッドホンやイヤホンのために軽便な端子として考えられたバランス出力からクソでかいスピーカーを鳴らすなどというそんな珍妙なことをやりたがるやつはこの世にそういないのでケーブルの選択肢があまりないかもしれません。

 アンプはなんでもいいと思います。本当はお金を出してこだわるべき部分ですが、今回そもそも音をどうこうするのはDACがだいたいやってくれるので、そこで音作りは八割がた終わっているものだとします。それを素直に増幅してもらえれば目標は達成です。スピーカーの許容入力とかインピーダンスを考えて少し大出力のものを選んでおけばいいかな。

 スピーカーはそこそこ考えたほうがいい気がしますね。金もやたらかかるし特にこだわりはないので中古屋で買えばいいのですが、せっかくコンポから変えようというのにコンポのフルレンジ*3一基ずつと同じでは寂しい。高級でなくていいので、小指の先ほどくらいには良いグレードのブックシェルフ*4スピーカーを見繕います。


崩壊アンプリファー


 アンプは値段とのバランスで候補を3つに絞りました。

FOSTEX フォステクス パーソナル・アンプ  ハイレゾ対応 AP20d

FOSTEX フォステクス パーソナル・アンプ ハイレゾ対応 AP20d

  • 発売日: 2017/04/12
  • メディア: エレクトロニクス


 最初はスピーカーでも有名なフォステクスの入門機を考えていましたが、入門と考えると10k超えは……というところ。出力も小さめのスピーカーならいけそうですが、能率が低いものはちょっと難しい。これからスピーカーでウンウン唸ることを考えると、金銭的にも出力的にも余裕がほしいかなあ。


 


 そこで中華アンプを考えます。最近はさっきから触れているHidizsもそうですが、FiioやHibyといった深セン系のITオーディオ企業が台頭してきていることはポータブルオーディオ好きの間でもはや常識なので、相当選び方をズッコケなければそこそこのものが安く手に入るでしょう。とりあえず令和最新とか電撃が出てたりしなければ大丈夫です。
 fx-audio-はその中華製なんですが、輸入・設計を担当するNFJ社が自社製品を分解してエンジニアにレビューしてもらうブログを運営したりしているので、そういうところがなかなか気持ちのいい企業だなと思います。ここの高出力アンプFX98Eに決めました。
 これにプラスして別売の電源をつければ、アンプ選びはいいでしょう。


マブチモーターヘッドホンケーブルガイ


 次いでケーブルです。これも特にこだわりはないので…(二回目)といったところですが、以前ヘッドホンのリケーブルにニッケルメッキプラグのものを選んで自分のイメージと違い悲しくなったことがあるのでそこそこに考えていきます。



 安くて評判がいいのはこれっぽいですね。モガミというのは昔からあるケーブルメーカーらしく、オーディオ雑誌にもちょこちょこ名前が出ているようです。これで行きましょう。


Banana phone



 コードの端はこれで処理していきましょう。バナナプラグ*5を使うとケーブルとの間に異素材が入るわけですから音質に変動要素が増えますが、アンプの裏面があんまり広くなさそうなので直接結線するよりはスッキリするかと思います。慣れないケーブルつなぎでプラスとマイナスの配線が触れ合ってアンプをボン!!!させるよりはマシです。
 未来の僕がモガミケーブルのクッソ厚い皮膜を中を切らずに剥いてこいつを取り付ける作業にもがき苦しむことになりますが、それは今の僕はまだ知らないことになっているので気にしないでおきましょうかね。


シューゲイザースピーカー


 さてスピーカー。これが難問です。最初はAmazonフォステクスのスピーカーを考えていました。スピーカーの構造は内部の空力など今のほうが研究が進んでいると思われますが、結局のところ根本的な仕組みはそう変わらないし、中古でも良いものは良いだろうと考え中古で見繕います。新品のエントリークラスと中古のミドルクラスどっちを取るかは難しいですが、安さで言えば後者が圧勝ですしね。
 それに悲しいかなオーディオ業界はいま衰退ぎみで、今から考えるとむしろ四半世紀まえくらいが黄金時代とも言えます。であれば、その時代のなかなか面白いものが今のタイミングで出回ってそうな気がしますし。


 出回ってました。

 4000円くらいで重さもずっしりしており、見た目にもエンクロージャ*6が分厚くて合板っぽくないのがいいです。このLS-7PROはケンウッドの高級コンポに付属していたスピーカーながら、今はもうないリニアム社という会社が特許を持ってる特殊なツィーター*7を積んだ変わり種のものらしいですね。ネット上でもいくつか情報が転がっており、学生兄貴がこれで環境を構築している記事などもなかなか面白く読みました。
 レビューいわく、リニアム型ツィーターの高音は非常に素晴らしく類を見ないらしいですが、ウーファーが信じられないほどダメとのこと。まあ、僕はドンシャリはそこまで好きでもないので、きれいに鳴ってくれればそれでいいです。


構築



 できました。

 素晴らしい配線のごちゃつきよう。これでこそ適当構築です。電源とDACとアンプと何もかもがクソ近いあたりに組み上げた人の性格と人生がよく反映されていますね。偉大なるスパゲッティ・モンスター様もコードが麺類のように絡み合うさまを空からご笑覧なされていることでしょう。

 さあ早速つなげて、スイッチオン!


音が出ない


 どうしよう。音が出るを目標にしていたのに片側のスピーカーから音が出ない。

 まいったな………ここまでの過程に問題があったのか…?……まったくわから…いやどう考えても心当たりしかねえな……


 そらこんなおぞましい組み上げ方をして部品点数も多ければそうなりますわな。「まあ大丈夫だ。一人あたりのキンタマの数は平均取ると一個だっていうし鳴るスピーカーも一個が平均だろ」と台湾式統計学のまやかし*8で自分を落ち着けながら原因箇所を特定していきます。

 まずアンプの出力に刺さっているバナナプラグを入れ替えてみる。そうすると左側だけ、右側だけの片鳴りが入れ替わる。ということは左右のスピーカーケーブルとスピーカー自体はちゃんと電気が通って返してくれるわけで、導通は問題ないですね。次にアンプの出力を上げてみると、鳴らない側もホワイトノイズが出ていることがわかります。つまりアンプも出力自体は左右両方スピーカーに出しているわけです。
 つまりアンプより上流が問題になってきます。たぶんケーブルだな、とあたりをつけ、3.5mmのRCAケーブルを間に合わせで買ってきて試してみる。

 音が出た!!
 やっぱ2.5mmバランスからRCAに出力する人はそういないってことですね。バランスケーブル使ってバランス悪くしてどーすんだ。不良品のケーブルは返品して、次のケーブルが上手くやってくれることを祈りましょう。


完成、実聴



 あまりいい耳してる自信はないのですが、完成したシステムの感想を書いていきます。

 まずFX-AUDIO-のアンプは無難に使いやすいですね。ゲイン量も変えられるので、聞きやすい音量をしっかりソースに合わせて探ることが出来ました。真空管アンプも面白そうなので、いずれプリアンプとして買ってみたくもあります。

 さて音の大部分を決定するスピーカーについて。

 ほんとにネットで言われてる通り低音がまったくないですね……。ウーファーがびっくりするほど仕事サボってますわ。全部ツィーターから音出してますって言っても信じちゃうね。
 よく、「腹の底にドンドン響く」っていう言い回しがあるでしょう。あれの逆ですね。「耳の先がスースーする」とでもいいましょうか?そんな感じです。

 ただ、面白いのが凄まじいほどの透明感です。ほんとに突き抜けるかのように音が伸び、シンバルやハイハットなんかはもう見事なもんです。解像度が高いと表現するのもまた違う鳴らし方で、情報量が詰まった音ではないのにも関わらず高音の繊細さがすごく活きている。
 自分がポータブルオーディオ畑の人間なのでたとえる先がそっち寄りになってしまうんですが、オーテクの開放型ヘッドホンでAirというすっごいヌケがよくて高音の気持ちいいやつに似た音を感じます。低音は確かに無いながらも、高い音程に一芸があり、過密さとは無縁の聴いていてストレスのない音です。
 僕はレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとかが好きなんで本当はハードロックをガシガシ鳴らしたかったんですが、まあこれはこれで女性ボーカルに向いてて使いでがありますね。ずとまよやヨルシカを流してみるとなかなか良く合ってる印象。最近はボカロPがコンポーザーをやるバンドも多いので、ああいうギッチギチに音を詰めた曲の作り方(それはそれで好きなので悪いわけではないです)に対してこのスピーカーはボーカルを伸ばしつつ適度に圧力を抜いて再生してくれて丁度いい。
 ギュウギュウの音をすこし間引きしているといいますか、風通しの良い音にして出してくれるのでさっぱりしてます。食いもんで言うなら、大葉と氷を浮かべたつゆで食う冷や麦ってところですか。悪くはないですね。


まとめ


 そんなこんなでなかなか面白いオーディオ環境が組めました。

 今回かかった金額としては、USBハブやアンプの電源など小物含めて19000円程度でした。まあまあですね。
 もっとも、これにプレイヤーやDACは含まれていないので、そこまで一式揃えるとなると3万円オーバーくらいにはなってくるかな?といったところ。とはいえ、スマホなりプレイヤーなりを持っていない人は今日日そう多くないでしょうから、だいたいは今回の例にDACをプラスする程度ではないでしょうか。
 予算がないなりに良いものを探そうと足繁く中古屋に通うのはどのジャンルの趣味でもおもしろいもんです。自分で考えてユニットを組み上げていくのも浪漫があり、今回の経験は自分のボンクラ人生になかなか磨きをかけた気がします。

 とはいえ安さにこだわりすぎる必要はないと思います。自分の場合はとにかく早く組み上げたいのもありすぐ出せる金額で組み上げましたが、お金をかけ時間をかけ良い機材を選ばれたほうが愛着は増すと思いますので。
それにやはり安いものには安いなりの事情があります。これはイヤホン・ヘッドホン沼にいるときから感じていたことですが、「この価格帯ではずば抜けている」というものがあれどその上のクラスでは通用しないことが殆どです。オーディオに対するこだわりが強い人の中には「高級機に匹敵する」という言い回しを嫌がる人もいますが、確かに多少わからんでもないといったところです。あまり安さ安さとコストパフォーマンスを称揚すると正直いまどきオーディオシステムを組む意味が無……この辺にしておこう。

 オーディオというとややこしくオカルティックな側面が注目されがちですが、こういうのでいいんだと思います。無理に背伸びせず、じっくり良さそうなものを選んでこういうコンパクトにまとまった小さい箱庭をつくるのも趣があります。
 この記事が誰かの役に立つことはそうないと思いますが、まあおもしれえことやってんなと思っていただければ僕も嬉しいですかね。
 

<了>

*1:デジタルアナログ変換。データを読み出して電流の強弱に変える。早い話、こいつがデジタルオーディオの味や方向性をになう心臓部。音の出る機械にならだいたい積まれているが、パソコンやスマホに標準で入ってるのは音質より消費電力を重視したもの

*2:GNDを別々にして左右の音を完全に分離し音を出す接続方法。我々がよく使う3.5mmジャックはプラスこそ別々に出ているが実はマイナス極で左右が合流しているのでわずかに左右の音が混じってクロストークを起こしている

*3:ひとつのスピーカーで高音から低音まで全部出す方式

*4:本棚に置けるサイズのスピーカー。背の高い床に置くタイプのスピーカーはトールボーイという

*5:スピーカーやアンプと簡単にケーブルを着脱できるようにするプラグ。アンプとスピーカーはもともとむき出しの配線を挟み込める端子があるが、それが嫌ならこれを使う

*6:筐体、部品を納めている箱そのもの

*7:高音を担当するスピーカー。ウーファーという低音担当のスピーカーと併用して鳴らす事が多い。さらにこれらに加えて中音域を担当するスコーカーを搭載するものもある

*8:台湾のネットスラング。男性のキンタマの数で平均を取るとかなりの人は2個あるだろうが事情により1個やない人もいるため1.xxという数字になる。そうすると実際は2個ある人が多いのに平均では大半の男性に満足にあるのは小数点切り捨てで1個となるので実際と食い違うという「平均」を皮肉ったジョーク