12garage

主にゲームと映画についての雑記。

シン・最近買ったイヤホンのレビュー

 最近またイヤホンがぞろぞろと増えだしたので、過去の記事よろしくゆるゆると短評をつけて書いておきたいと思う。役に立つかはわからないけど「このメーカーおもしろそうだな」みたいなのがあったら嬉しいですね。



RHA MA650

(現在ではふつうの3.5mmジャックバージョンのMA650が生産完了でもうないのでこちらを載せておく。通常のジャックで近いものとしてはMA750だと思う)

 イギリスのイヤホンメーカーであるRHAのMA650がハードオフでとても安かったので衝動買いしてしまった。いい買い物だった……。

 RHAのイヤホンはよくロック向けと評されていて僕もそのとおりだと思う。弦楽器とボーカルがよく映える。音場の広さや解像感はさすがに値段なりではあるが、キレが良く、普段遣いするにはこういう聴いていて楽しいイヤホンが疲れない。
 また筐体がとても小さくまとまっているのも良いポイントで、寝転がっても邪魔にならない。

 ちなみにRHAのイヤーピースは非常によくできており、他のイヤホンのためにRHAのイヤーピースセットを単体で買う人もいるくらいで、かなり評判が良い。ふつうのイヤーピースだけでなくダブルフランジなどもセットにしているので、大体の場合はセットを買えばなにかしら自分の耳に合うピースが手に入るというところが人気なのかもしれない。

 

CCA CS16


 激安中華マルチドライバイヤホンを展開するKZというブランドがあるが、そのいとこのような関係にあるのがCCAという商品ラインである。

 KZのイヤホンは概してドンシャリ過激派で、なんつーかナシードを歌いながらカラシニコフを空に向かって乱射しているやばいやつらみたいな音を出すのだが、CCAはその逆で落ち着いたトータルバランスを重視して音を作る。
 このイヤホンも実に片側8基ずつ16基という、一見怒りのデスロード付近に住んでる人々が作ったのだろうかと思うような狂った数のBAドライバ*1を搭載しつつも総合バランスを良く考えており、たくさんドライバがありつつもてんでバラバラなことをやったりせずにまとまって厚みのある音を出してくれる。マルチドライバ機はそれぞれのドライバをどう各音域に割り振っていくかが非常に重要だが、どの音域にも目立った欠けがなく、その舵取りがうまくできている。

 概してよくできていると思うが、付属しているイヤーピースがあまりにも貧弱なので付け替え必須なこと、16基のドライバをきちんと駆動させるためのパワーをアンプなどで稼いでやらないと若干力量を引き出せないように思えるところがあるため、金田のバイク的な気難しさがある。
 しかしながら十分なゲインでドライブしたときの迫力にはアラウンド一万円とは思えない底力を感じる。取り回しの難しさゆえに他人におすすめできるかというと微妙だが、アンプを持っている人には「これも面白いよ」と言える一本ではある。


水月雨 Starfield

 深く、憂いを帯びたような紺色のケーブルと星のような煌めきを散りばめた筐体がどこまでも美しいイヤホン。買ってかなり経っているが、今でも見るたびに満足感が湧き起こる。夜空……宇宙……啓蒙………
 手動研磨をするなど手間がかかっていることもあり一万円付近の普及帯のイヤホンにしては信じられないほどデザインが美しいが、中身に関しても確かな技術が使われていて、カーボンナノチューブでできた振動板などとても豪華な素材が組み込まれている。

 また、音場の広さも特徴的で、高級オーディオメーカーがやるように実際に人間の頭のかたちを模したヘッドトルソーを用いて聞こえ方を調整しながら空間表現をチューニングしているらしい。実際に聴いてみると確かにハコの広さを感じさせ、どうしても小さくまとまりがちなイヤホンの音場をうまく広げて狭っ苦しさを取り除いているように思う。
 音質についてはフラットというよりはドンシャリでロック向け。特にボーカルは女性ボーカルなどが含まれる中音域がすこし引っ込んでいるのでどちらかというと男性ボーカルのロックとの相性が良さげ。

 なんでもオールマイティにとはいいがたく、個性が強く出ている特化型のイヤホンだと思うが、ほかにない魅力ゆえイヤホンが増えてもときたま引っ張り出して聴きたくなる味がある。


TFZ King Edition

 数ヶ月前のおれの預金残高を完膚なきまでに徹底破壊したお高いイヤホン。やっこさん死んだよ、俺が殺した。

 TFZという比較的若い中国のイヤホンメーカーが開発した製品で、デザインもなかなかに振り切れている。
 M1Uという剛性の高いダイヤモンド振動板を使った同社開発のダイナミックドライバが特徴で、このおかげでダイナミック一基でありながら信じられないほどの解像度とスピード感を実現している。つまり音の詳細まで表現でき、いいキレで鳴る。

 これだけでもなかなかこだわりのあるイヤホンだが、さらにこだわっているポイントが本体筐体に「音質を変えるスイッチ」がついていることだ。これを切り替えるとなんと出てくる音が変わる。この会社は何を言ってるんだ?なんでイヤホンにスイッチを付ける必要があるんですか?
 背面についているこのミニスイッチを切り替えると、本体の電気的抵抗を変えて音質をリスニング向けとモニター向けに切り替えられるという謎の機能が実装されている。これにより同じイヤホンでありながら印象の違う音を楽しむことができるらしい。
 理屈はわかるんだがただでさえサウンドエンジニアが音作りをいろいろ考えて開発しているイヤホンに「面白そうやん!!やったろ!!!!」でこんなギミックを実装するあたり、もしかしたらこの会社はヤバい人しかいないんじゃないのかと思わざるを得ない。

 音の傾向としてはやはりドンシャリでフラットとはいい難いものの、かといってどの音域も解像度が高くどういう音が鳴っているかキッチリわかるため、極端に中音が足りなくて不満ということもない。低音をドッと押し出してきて迫力があるので、聴きごたえも抜群にある。
 付属物にもメーカーの思想がよく反映されており、セレーションの入ったしなやかな平ケーブル一本とイヤーピースが二種ずつ付属する。こういうところはメーカーによってはほんとにいい加減にやったりするが、TFZの場合は異常に手のかかったアクセサリをつけてくるもんだから「これを使え……。オレの息子に生半可なカスタムをするのは許さん……」というスゴ味を感じる。

 余談だが、本機に使われているM1Uドライバは"No.3"や"Queen"といったこれより安価な機種にも搭載されている。ベントの位置やチューニングは違うが、もう少し手軽にTFZの音作りの変態性を感じてみたい人にはおすすめしておく。

 

nuarl NT01A

 nuarlは日本国内の新興イヤホンメーカー。新興ではあるが、開発やサービス面は本格的でユーザーに対するサービスがいい。
 とくにそのへんが伝わってくるのが「いいSoC*2を使ってるよ!」というアピールである。これはトゥルーワイヤレスのことをよくわかってるなと思わせる。

 ここまでのイヤホンでも「このイヤホンはいいドライバ使ってるよ!」というふうに僕も紹介してきた。ドライバはイヤホンの心臓部なのだからそらまあ当然だ。もちろんこのイヤホンもグラフェンコートドライバを使うなど気を使っている。世間的にもドライバはまっさきに注目される部分でもある。

 しかしワイヤレスイヤホンの場合はドライバが良ければいいのかというといささか事情が異なる。というのもワイヤレスイヤホンの場合はトータルバランスが大事だからだ。


蛇足:ワイヤレスイヤホンはトータルバランスが重要という話

 (ワイヤレスイヤホンについて語りたいのだが、なんかちょっと長くなりそうなので飛ばしやすいように見出しを分けておく)

 たとえばラーメンを食べるとき、スープはめちゃくちゃいいけれど、麺がありえないほど伸びまくっててブヨブヨだったらトータルでの印象はあまり良くない。スポーツカーで言えばエンジンは水平対向だけどタイヤが安物だったり剛性が足りなくてグニャグニャのボディだったらいいクルマと言えるか微妙だ。

 これと同じことがワイヤレスイヤホンにも言えるし、このトータルバランスがワイヤレスイヤホンを選ぶときに重要なポイントだと僕は思っている。ワイヤレスイヤホンはただ無線で電波を飛ばして音楽を聴くためのものではあるが、内部的には非常に複雑なことをやっており、あの小さい本体の中にドライバを仕込んだ上でギッチギチに部品を詰め込んでシステムを構築している。そう、なので、極端に言えばその中の部品がひとつでもダメなものが混じっているとそこのレベルに合わせた音になってくる

 ドライバがいいとしても、それを駆動するバッテリーが全くもたなくてダメだったり、アンテナの受信感度が最悪だったり、BLUETOOTHで運ばれてきたデジタルデータをデコード(解読)するDACが死んでる品質だと遅延しまくったりとそこに合わせたレベルになる。それがワイヤレスイヤホンの難しいところだ。
 だから、ワイヤレスイヤホンではドライバにこだわってますよというのはいわば当たり前の話になる。その上で頭脳部であるSoCやバッテリーなども良くなければならない。

 (蛇足終わり)


   そのへん、nuarlはドライバだけでなくSoCをアピールしているのが上手いところだ。事実、SoCがそれなり良いものなのでaptXといったコーデックが使えてたいへん強い。NT01Aはもともと旧世代機のフラッグシップに積まれていたパーツをそのまま外装を変えて廉価版としたものなので、世代的には少し前ながらグレードはいいものになっている。

 実際に聴いてみると、非常にバランスが取れた音が鳴り高音から低音まで「この音域が欠けている」というような弱点がない。解像度に関してはさすがに例の変態のイヤホンまではいかないがある程度確保されており、気軽に使う用途としては十分にある。価格を考えるとむしろ驚異と言ってもいい。
 ワイヤレスイヤホンの素晴らしいところは、要は中に音を出すために必要な部品が一式入っているので、たとえ送信側が高い機械でも安い機械でもそこまでは音が変化せず同じ音質で聞けることだ。コーデックがaptXとかで伝送できるかくらいの差しかないし、むしろ下手にスマホに有線でつなぐよりもイヤホンの中でD/A変換処理をやってくれるので「こいつに任せちまえばいい」とすら思える。

 メーカーとしては歴史が浅いものの、nuarl製であれば使っているイヤホンを下取りして割引してくれるなど対応の良さもあり、なかなかおもしろい会社だなと思っている。



<了>

*1:バランスド・アーマチュア型ドライバ。ドライバとは振動板を電気で震わせて音を出すところのこと。一般的にスピーカーのような形のダイナミック型ドライバと、補聴器の仕組みを参考にしたバランスド・アーマチュア型ドライバの2タイプがドライバの主流となっている

*2:System On a Chip,つまりシステムを一枚にまとめたチップのこと。ワイヤレスイヤホンの場合は受信のためのアンテナやDACを一枚にまとめている。クァルコム社のものが最大手